この本を手に取るあなたへ
「目に余る組織の腐敗に目を向ける読み方だけではなく、その腐敗した組織に自分が属していると仮定して、不条理と闘う『勇気』と『気力』が維持できるか(Can I Keep?)のではなく、維持できる人間になりたいか(Would I Like To Be?)」で読んでみよう
腐敗の構造とディティールが克明に記されており、文章だけでは理解できない。自ら図解してみても経済学が苦手の私にとってこ難しいカラクリ。
まぁ、でも。
思いっきり端よれば「ネコババ」している輩が企業にせよ政治家にせよ官僚にせよ存在し、そのネコババしたお金が世の中を動かしている側面もあるという。
それは悲しいかな「事実だ」と認めざるを得ないのだろう。
汚れた金を手にしたくはないけれど、汚れた金は世の中で回っている。知らずにその恩恵を受けていることもあるのだと。
和光監査役の「5シンの戒め」(91頁)が正しい方角を照らす道標。
逸脱すれば、利権構造と人間の物欲は真実と正義を埋もれさせてしまい(314頁)、「The Most Dangerous Animal in the World」(167頁)を見てしまうことになる。
全5巻の物語、ジャンボジェット機墜落事故が小説の軸であり、事故以前からの企業体質と事故以後の利権を巡る輩どもの話で愉快な気分にはなれない。
物語の終わり方は希望を僅かにしか感じられない、スカっとした結末ではない。だから世の中は自分が感じているよりも遥かに汚濁しているんだという残酷な現実を突きつけられているかのよう。
時代小説家池波正太郎は「悪いことをしながら善いことをする。善いことをしながら悪いことをする。どちらも人間であり、矛盾を抱えながら生きていく」というようなことを説いた。
鬼平犯科帳に現れる盗賊にそんな輩が多いのだが、この「沈まぬ太陽」ではそんな手合の輩が登場してこない。
悪いことをする輩はとことん悪いことをする下司でしかない。
主人公恩地元や国見会長はどこまでも正義の人だし、主人公のライバル行天や轟らはどこまでも悪の人だ。
限りなくノンフィクションに近いフィクションだから、敢えて善人・悪人を明確に区分けして執筆されたのだと思いたい。
読み手は誰もが主人公側に感情移入させやすい、古代から日本は「賄賂は必要悪」という国家体質の国柄だという。
この国の体質に一石を投じた作品だと後世に伝えられるのかもしれない。
最後に。
事故によって尊い命を落とされた521名(胎児の話に涙しました)の魂とご遺族に思いを馳せる。
合掌
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