「10年間という時間の始点、終点を想像せずに無期限の時間を過ごさなければならないと思って読んでみよう」
主人公、恩地元は「カラチ」「テヘラン」「ナイロビ」と転勤させられる
地理的には、西へ西へと日本から離れる一方
職場環境は、集団から孤立へ
海外赴任してから10年間というゴール(到達期間)を知っている読み手ですら、主人公の孤独感とやりきれなさは想像を絶する。
まして、主人公そしてその家族は10年という終点が判らずに過ごしていたのだ。
それを思い合わせると「ナイロビ篇」で主人公が狂気に陥り、自身が撃った剥製を銃で木っ端微塵に撃ちまくるくだりは恐ろしくもあり。
狂気に陥る心境も朧げながら分かる。
というのも、自分自身も主人公の境遇には及ぶべくもないが、望まぬ転勤を強いられたことがある。
転勤の糸を引いた当事者の顔を思い浮かべると、運転していればアクセルを目一杯踏み込んだし、手に持った「モノ」を投げつけたくなったこともあるからだ。
しかし、それでも。それほど絶望的な状態であっても、いやあるからこそ。
人は何かしらの生きる楽しみを模索していく。
主人公恩地元の場合は「狩り」
我々読み手からすればずいぶんと荒っぽく、暴力的な趣味に映る。
平和で身近に生物による命を脅かされるリスクもなく暮らしているからだ。
なんども書くが、「終点がいつ来るのか分からずに暮らすやるせなさ」、加えて「自然への畏怖、尊敬」といったものがないまぜになって主人公を「狩り」という趣味に走らせたのではなかろうか。
終わりが見えない中で信念を貫き通し続ける主人公に感激する。
私は恩地元のような「貫く覚悟がある」人間ではないが、究極の選択を強いられる場面でそうでありたいと希う。
私は国民航空の上層部に巣食う「エゴイズム至上主義」の企業体質を憎む。
そんな企業にあって、反骨心の塊であり、主人公を公平に扱ってくれる島津支店長の存在に胸をなでおろす。
それからアフリカに住んでいる日本人たちの人生の送りようが清涼剤のように爽やかで清々しい読み応えを与えてくれる。
アフリカ篇
第7章 テヘラン
第8章 ナイロビ
第9章 春雷
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