2013年1月22日火曜日

本所しぐれ町物語


「新・平家物語」の合間に読もうと手に取っては再び鞄の中に、積読の山に戻して、と。
そんなことを繰り返していたので、読み始めてから、読み終えるまでの期間はおおよそ半年近く掛かった本だ。
おかげで表紙がかなり擦り切れてしまった。

連作長編。
特徴は一編では主役だった人物が次の二編目では脇役で登場する、という趣向。
狂言回しは大家の清兵衛さんと書役の万平さん。
万平さんの「あっちが痛い、こっちが痛い」発言には目の前に実在する人物なら辟易するところかもしれないが、文章で読むと(つまり客観的立場でいられると)微笑ましい愚痴だ。

「猫」連作の主人公、栄之助の話にクスリとさせられる。
適役は少し以前の「市川染五郎」あたりが瞼に浮かぶ。
作者藤沢周平という人は堅物のイメージが強いんだけれども、「男の浮気な心」をよーく見抜いているなぁ、と。

「日盛り」や「約束」では、幼い少年少女の頃の無垢を思い出させてくれる。
大人になれば分かってしまう大人の嘘を見抜けない少年の後悔。
経緯がどうであれ交わした約束をきちんと果たそうとする健気な少女の一途さ。

そんな幼い頃を思い出せておいて「秋」で人生の「秋」をズシンと感じさせる。
こちらの適役は「中村梅雀」なんてどうだろう?
過去を懐かしみ元恋人と会ったはいいが、年月を埋められないままで虚しさを覚える「政右衛門」と現在を生きる(過去は過去でしかない)「おふさ」の平行線の会話を読む。
我が身に置き換えると、最近Facebookで繋がった幼馴染の女の子、繋がるのはネットの世界だけにとどめておいたほうが賢明だろうな。

上記に感想を述べた編が好み。


鼬の道

朧夜
ふたたび猫
日盛り
約束
春の雲
みたび猫
乳房
おしまいの猫
秋色しぐれ町



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