2012年6月7日木曜日

新・平家物語 みちのくの巻


義朝の遺児の一人、牛若を主人公に迎える。
牛若の反平家の種子を育て上げようと都の北部で堅い結束を固めながら牛若を見守る源氏の家臣たち
天狗と呼ばれる存在は牛若を大切に崇めながら成長を見守る義朝の遺臣らだと定義づけている。

牛若は長じて悲劇のヒーロー義経となる。
だが挙兵するまでの彼の足跡は平泉だけだと言わず、途中で関東に寄ったり、那須与一との邂逅があったりする。
平泉で挙兵のときを待つわけではなく、和歌山へ向かう。
このあたりが新鮮に読める
何よりも驚くのが義経の人となり。

2005年大河で滝沢秀明が演じたような儚げで純真無垢ないい子ちゃんなイメージが義経にはあるのだが、そうではなく、「わがまま気ままなボンボンちゃん不良少年」な印象。
母親の愛情を受けることができずに、養護施設で成長した少年を思い浮かべれば当たらずとも遠からずではなかろうか。

義経と対照的に静かに伊豆で暮らす頼朝
彼の周りにも、文覚上人が流されてきたり、と。何やら静かさを打ち破る何かが萌芽しつつある。





義経の肖像画をご覧になった方は、タッキーはじめ美男子が演じているのに、どうしてこんなにイケてない肖像なのかしら?と思った方も多いはず
その理由を肉体的成長のプルーフとして。

この子には、このように父母との縁も、乳も食も肉体的な幸福は何一つ人並みに与えなかったが、それに耐えうる強靭な意志と智とをさずけてはいた。
(266頁)

平泉へ金売吉次に連れられながらも決して一筋縄で行かない義経。
その人となりに驚くが、所謂グレかけた少年を思い合わせながらいいのかな、と思う。

源氏にとっての平泉。

広大にして平家の勢力もそこまでには及び得ない奥州藤原氏の領野こそは、日陰に生きる彼ら源氏の仲間には陽当りのいい魅惑の天地だったに違いない。
(301頁)

もし、こうした彼に母なる人がなかったとしたら、後の源九郎義経は有り得たかどうか分からない。
たとえ鞍馬を出ても羅生門に巣食う不良の一人となる環境と素質は多分にもっていた
(377頁)

義経のイメージ崩壊、その2
これでみると、牛若の九郎冠者は、剽悍な匪賊か野武士のようで世間にとって油断も隙もならない物騒な乱暴者みたいである。
(13頁)

その不良少年とでも言うべき九郎義経、生々しい敗者の現実を見て感じたこと。
これが、打倒平家の九郎の原動力の最大のものになっている。
この文は第二次世界大戦後の日本の世相と交錯させて執筆されたのだろう。

この武蔵野の一年余。彼はつくづく敗者の生活と敗土の貧しさを見た。
(23頁)

時代に翻弄される女性。常盤御前や皇室関係に嫁いだ女性意外にもこういう女性がいた。
後に義経に仕える継信・忠信の母のこと。義朝と契り、後に佐藤元治に嫁ぐことになる。
つまり、義経と佐藤兄弟は血縁こそ繋がらないが、縁の深い関係。
だからこそ、後の屋島の合戦で身を挺して義経を護衛するわけだ。

この母もまた、この時代の風習がそして男女の社会的結束がどの女性にもひとしい宿命を否みなくさせているように。
奇異な女性の開花をとげて二人の良人を換えていた。
(39頁)

【収録】
天狗道場
童心一途
山祭り
白粉まだら
大天井
吉次隠し
花龍胆
昔噺五条の橋
阿修羅の子
悲母

先物買い
熊坂
吉日
足柄越え
草の実党
醜女ぜめ
浅草寺夜泊
牧の仔馬
春風坂東歌
きのうの船
巡りぞ会わん
比企の局
枯野の青侍たち
ゆかり紫
継信・忠信
奇縁と奇なる日
鳥かご嫌い
黄金曼陀羅
藤原三代
寒流暖流

0 件のコメント:

コメントを投稿