夏休みに読んだ本の一つ
序盤の3作は、マニュアル車両で例えてみるとロー・セカンド、サード、そしてトップといった感じで、狂気が加速して、ブレーキをかけても止まらなくなるような感覚に陥る。
日常的で誰にでもあるような、ふとした落度のような類から物語は始まる。
あなたのことを言っているわけではないのに、あなたのことを言っているように受け止められて気まずくなった。
いつもと違うルートで電車に乗って、切符を買い損ねた。
痴漢の冤罪。
中でも表題にもなっている「懲戒の部屋」は、痴漢撲滅に向けて過剰なまでのキャンペーン(痴漢を擁護しているわけじゃない)が叫ばれている中、シャレにならない、シャレの物語。
こういう未来が訪れることを予測して、そのとおりの未来が訪れているのだから、筒井康隆は「たいしたもん」だし、本当にリスペクトしてしまう小説家だ。
「顔面崩壊」と「蟹甲癬」(蟹工船のもじりですね)は、描写のグロテスクさと、その考証の正確さに驚いてしまう
感想などをエントリーしているサイトを覗くと、この篇を読み終えることができない人も多いらしく。
それをスラスラと読んでしまう私って、感覚が麻痺しているのかなぁ、と、自分の視覚・知覚・触覚が一般的なレベルから逸脱しているんじゃないかと、心配になってきた。
シュールな怖さが訪れるのは「熊の木本線」
登場してくる住民たちに大きな秘密があるのかと思いきや。
「かくれんぼをした夜」は、年齢を重ねて還暦を迎える頃になってから読み返してみたら、人生の儚さだとか、生への感謝だとかをもっとズシンと受け止められるんじゃなかろうかと思う次第。
≪収録作品≫
走る取的
乗越駅の刑罰
懲戒の部屋
熊の木本線
顔面崩壊
近づいている時計
蟹甲癬
かくれんぼをした夜
風
都市盗掘団
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